No.3-2002/Mar
この度は私の古くからの友人である、一人の男からのメッセージを代弁すべく

キーボードを叩く事となりました

彼は先天的に言葉が不自由で、キーボードを打てる程指先も発達していない為

このような運びとなりました


   ― でん の主張 ―


彼は犬である!
名前は "でん" !
何故 でん かと云うと、彼の主人が極度の面倒くさがりというか、いい加減? な為
名前を付ける段階で

 名前どーすっかなぁ? 考えんのカッタリぃなぁ!

 あっ!ゴールデンだし でん でいいや!

ぐらいの安直かつ、貧相な発想によって名付けられたのであった

ちなみにその当時Needleのもとで飼われてたMダックスは、ナックルという
素敵な名前をもらっていた
もちろん両親共アメリカチャンピオンのバリバリの良家の出である
しかし残念ながら彼もNeedleのもとで、只の駄犬となってしまったのだが・・・


話をもとに戻そう
その頃 でん はというと、主人に似て大雑把なというか、良く云えばおおらかというか
その人見知りしない性格(エサをくれる人なら誰にでも憑いて行くのだが)で
主人の友人達にも愛でられ、青春を謳歌していたのである

そんな彼にも思春期の悩みとでもいうのか、いろいろと問題は山積みだったのである
例えばその当時よくまわりから "お前はおバカだ!" と云われていたのだが
彼に云わせれば自分より、主人の方こそおバカなんだと次のような実例を挙げて
激しく自己主張する!

通常自分の飼い犬が何か悪さをした場合、あなたならどうしますか?
犬という生き物は集団生活を好む為、独りにされる事に極度のストレスを感じる!
因って、それぞれ叱り方は違えど反省を促す為にも、自分の犬小屋、またはそれに
附随する場所に一定時間、留まるよう指示するはずである
 
例えば、でん!ハウスっ!とこんな具合にである

そうする事に依って、彼らもじっとストレスに耐え "よしっ" と言われ戻って来た時に
家族とはなんて素晴らしいんだろうと実感し、自然と集団生活のルールというものを
理解し、把握していくものなのであるが、彼=でん の場合そうではなかった!
無論、彼にそういった能力が欠如していた訳ではない!
家庭環境に問題があったのである! 否、むしろ主人に問題があったのだ!

彼の主人が彼を叱る時いつも誇らしげにこう云った !!






 
 で〜ん、ホーム!







 えっ!直訳すると家庭じゃん!!


そうなのである、ご主人様はおバカだったのである!
幼少の頃、AC/DCを "あくだく" などと何の疑いもなく詠んでいたぐらいである!
むしろ外タレを知らない友人達に、誇らしげに語っていたぐらいである!

そんなご主人様のもと、彼は努力してたに違いない!
ホーム=家庭 !? 意味不明な理解しがたい言葉がアタマの中をグルグルと駆け巡る中
家庭という事は、暖かい?、愉しい?、仲睦まじい?などと想像力をフルに回転させ
愛くるしい笑顔と振りチギれんばかりに尻尾を振り回して主人のもとへとスリ寄って逝く!
 
それなのにご主人様は・・・

 違げぇーYo!バ〜カ!アッチだっRo!

などと女子高生のようにフィンガーサインをキメて、罵声を浴びせるのである!
あぁ、無情! 間違っているのはアナタなのにっ!
自分はアナタの言葉に唯々、忠実なだけなのにっ!

こんな時彼が言葉を話せたのなら・・・そう考えると溜息しか出てこない!
ご主人!ポーズキメてる場合じゃねぇYo!

 
次回、彼の主張は続く・・・

彼の身に降りかかる新たな災難とは・・・

そして何より、このおバカなご主人様とは・・・

代弁は続く・・・

 

    でんの主張   その2


あれはでんが3度目の冬を迎えた頃だろうか
その日は東京では珍しい程、雪が降っていたのである
でんはまだ遊びたい盛りの3才!朝から初めて見る豪雪にウキウキしていたのである

 ウッヒィー、外出てぇー、!

 アノ白こいヤツの上、走り廻りてぇー!

なぞと、狭い部屋の中をグルグルと落ち着かない様子で廻っていた・・・
しかしながら、悲しい事に自分の意思のみでは外出できない!
怨めしそうに未だ惰眠を貪っている己の主人の寝顔を睨め付けている・・・

この主人というのが生まれ付いての怠け者で、今まで33年人間やってきて
努力というものをした事が無い!
その上ヒドイ気分屋で気が向いた時以外は何もしないのである!
であるから、某HPが未だ閉鎖に追い込まれず存続している事が
私には不思議でならない! 余程、ツボにでもハマったのであろう・・・

まあ、そんな主人であるから彼は散歩に何日も行けなかったりとか
体臭が気になりだしても、半年も入浴出来なかったりと散々な犬生を送っていた
そこで彼は己の犬生は己で切り開くモノと心に決め、この後1年ぐらいの内に
独りで散歩に行く術を身に付け、川に飛び込み己で入浴するようになったのだ!
この事実を彼の主人が知ったのは、しばらく経ってからの事で、近所のよく行く公園に
集まっている愛犬友の会、会長みたいなご婦人に
 
 最近、でんちゃん独りでよく遊び来てるわよぉ

と、云われ初めて知ったのであった・・・


で、その日午後になってやっとご主人様が起き出してきて、彼も念願の外出ができる事 に 心を躍らせていたのである
イソイソと主人が着替えを始める・・・
来るべき瞬間を今か今かと待つ、でん!
主人が靴を履き、ドアを開けた刹那、勢いよく彼は飛び出す!

 
 ビィィィィィ〜ン! ぐぅっ!

 ナ、ナンダヨ、ハーネス付いてんじゃん!

彼は自由に走り廻る己を想像していただけに落胆のイロを隠せない・・・
勢いよく飛び出した為に、勢い余って後ろ足で立ち上がっている自分・・・
あぁ、いつだって気持ちは空回り・・・
それでも気を取り直し、彼は歩を進めた
いつもの公園に向かってない事が唯一の気懸かりではあったのだが・・・

彼の不安は的中する!
辿り着いた先は近所のゲーセンである

 マジかぁ?またココかよぉ〜!

彼がそう思うのもムリはない・・・
当時、バーチャファイターなる格闘ゲームがアーケードを席捲しており老若男女問わ ず その斬新な3Dポリゴンと、ゲーム性に魅せられていたのである
彼の主人も例外なく魅入られた一人であり、このゲーセンに一歩足を踏み入れたなら
風衛法により強制的に閉店となる時刻まではこの場を立ち去る事はなかった
つまりその間彼は、店の前にある電信柱に繋がれたままなのである

外は雪・・・それも稀にみる豪雪である・・・
 
時間が経つにつれ心身共、凍えるような寒さが彼を容赦なく蹂躪していく・・・

冬の日暮れは早い・・・急速に闇が拡散していく様が余計に寂しさを増幅させる

暖かいゲームセンターの中ではご主人様が彼の事を忘却の中に埋没させ

熱いバトルを繰り広げている・・・しかも大半は小学生・・・

主人ははそんな小学生や仕事帰りのサラリーマン達を叩きのめす事に熱中している・・・

 チキン野郎っ!下がんじゃねぇ!等と罵声を浴びせながら・・・


この後彼を待つ、究極の結末とは・・・

救世主は現れるのであろうか?

次回 横浜で遭難 !?


 でんの主張  ― その3 ―



それから数刻を経て、Needle達が横浜へ到着した
彼らもまた暇を持て余していたのだろう、そうでなければこんな豪雪の日に
わざわざ夏タイヤで東京から来るヤツなど存在しないであろう
Needle曰く、やって来た理由は雪合戦をする為だけだったようだが・・・
彼もなかなかそんな意味ではイカれているのである

ケツを滑らせながらやっとの思いででんの主人の家に辿り着いたのだが
家の中は蛻の殻である・・・
乱雑に散らかった部屋の中を見渡しただけで、家主の人となりが容易に推し量る事が
出来る・・・もちろん、部屋のドアは施錠されていない・・・
とても開放的な性格である!

せっかくこんなトコまで来たのだから是が非でも捕獲したい・・・
Needleはそんな想いを巡らせながら彼の立ち寄りそうなトコを考える

 パチンコ屋かゲーセンかぁ?

まぁ彼の素行と、この天候を考慮すればそんな遠くへは行っていないだろう
ましてやでんを連れて出掛けているのだし・・・

結果、彼はとりあえずパチンコ屋へ向かった・・・
そのパチンコ屋というのがヒドク景気の悪い店で、新装でもギチギチの非優良店である
" マジで騙しクレてんだろう !? " と思う程の憤りを覚えてしまう!
この場で店名を公開してやりたいぐらいなのだが、そこはホラッ、ねぇ?

店員に一瞥をクレ、店内を隈なく捜索するが彼を発見できぬまま
次なる目的地、ゲーセンへと向かうのである

ゲーセンの対向車線に車を停め、車道を横切って店へと向かう
店舗前の歩道に放置された自転車や、回収されずに転がったままの
ポリバケツ達の上には雪が積もり一面の銀世界が拡がっている・・・・

そんなモノトーンの景色の中、入口付近の電信柱の足元に金茶色の毛皮のようなモノ が 放置されている・・・白銀の世界の中、一際目立つナニかが・・・

Needleは17才の頃のバイク事故によって、極端に視力が弱い!
まだ彼の目にはソレが何なのか認識出来ていない・・・
徐々にソノ物体に近づくにつれ、ソレが何なのかハッキリとした

そう皆さんも、もうお気付きであろうでん!である

彼はNeedleの姿を発見すると、最後の力を振り絞り弱々しく尻尾を振ってみせた




うぉぉぉぉ〜 雪ぃ積もってんじゃ〜ん !!


そうなのである、でんの上に雪が積もっているのである!

皆さんは
生きている犬の上に雪が積もっているのを、見たことがありますかぁ?

私は声を大にして云いたい!
犬は哺乳類、つまり恒温動物なのである!平熱だって人間より1℃以上も高い!
トカゲなどの変温動物ならともかく、なんと云っても犬よぉ!犬 !?

どれほどの長い時間放置すれば積雪可能となるのであろうか?
まぁよくグレートジャーニーとかのイヌゾリ編で雪に埋もれ眠っているソリ犬達を
見かけるが、あそこはアラスカ!ココは横浜である!
言語道断!人間失格!であります!

うっすらクマまで出来てしまった<コレはマジでそう見えた!>でんの雪を掃い
おバカを叱り付ける為にNeedleが店内に入る!

そこで彼が見たモノは・・・
ゲームの筐体に攀じ登り相手プレーヤーを大声で罵倒するアツシの姿であった・・・



あぁ!おバカ!・・・素晴らしいねぇ!

いつまでも変わらぬキミでいて下さい!

キミがキミである為に・・・


                               完



  でんの主張  ― あとがき ―


でんの話はまだまだ沢山あるのですが、今回はこのぐらいにしておきます

機会を改めてまた、短編モノとしてアップするつもりです

また彼のご主人様ですが、世が世で "生類憐みの令" なるものが施行されている

時代ならば、もうこの世には存在していないかもしれませんねぇ

今の時代に生を受けたことを、神に感謝すべきでしょう

また、でんだからこそ彼を告発する事無く、寛大な気持ちで傍にいたことも・・・

最後にでんの本当の姿を知って頂きたいと思います

今回のテキストの内容だけでは "忠犬ハチ公" のようなイメージを抱いてしまった方も

少なくないと思いますが、実際のトコロはやはり飼主に似るもので

12chで本日pm7:00から放映している "ポチたま"!

それに出演している "まさおクン" と大差ありません

と云うか、もうほとんどそのままです

時間とタイミングが合う方は是非一度、ご覧アソばせっ!コン畜生っ!

次回作の時に、イメージし易いはずなので・・・

でわ、ゴキゲンよおぅ!